2021年12月08日にMSOL主催で実施したセミナー、『PMBOK®第7版の変更内容解説 アジャイルへの大転換』の内容をレポートとして公開します。
PMBOK®(Project Management Body Of Knowledge)とは「プロジェクトマネジメントの知識体系」のことを意味し、プロジェクトを成功するための基盤となる知識体系となっています。このPMBOK®が4年ぶりに改訂され、2021年に第7版が発表されました。今回の改訂ではこれまでのプロセス重視から原則重視へと大転換をしているとともに、アジャイルの取り扱いも大きく変化しております。今回は、この大転換をマネジメントソリューションズDigital事業部アカウントマネージャーであり、グローバルスタンダードなプロジェクトマネジメント協会であるPMIの日本支部アジャイル研究会副代表(元代表)も務める渡会健が解説します。
多くの企業で注目されているアジャイルですが、政府系では経済産業省が、民間では、JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)も注目し様々な発信がされています。
IPA(情報処理推進機構)やPMIの活動を通じての私の肌感では、2010年代前半は一部の初期採用層がいろいろ試していた時代でしたが、2010年代後半になってからは、現場よりも経営層や顧客側がアジャイル導入に積極的になり、トップダウンでの導入事例が増えてきており、今後はアジャイルにも取り組んだほうが有利かもしれないという時代から、アジャイルに取り組まないと生き残れないかもしれないという時代が到来しつつあります。ただし、ウォーターフォール型開発(PMBOK®では予測型と呼ぶので以後予測型とします)が、無くなるという意味ではありません。アジャイルも予測型も同じように理解し選択肢として選べることが重要になっているのです。
PMBOK®について"ITプロジェクト専用"だと思っている方がいらっしゃるかもしれませんが、PMBOK®では「オリンピック」「子供向けの本の出版」「人類の月面着陸」等がプロジェクトの例として挙げられているように、その対象はITプロジェクトに限りません。また、PMBOK®は"予測型専用"と誤解されている方もいらっしゃるかもしれませんが、予測型やアジャイルなどの開発アプローチに縛られない形に第7版にて大転換されました。
「アジャイル」という言葉がPMBOK®に初めて数カ所記載されたのは第5版(2014年)からです。その後、第6版(2017年)では、各知識エリアにおいて「アジャイル型環境や適応型環境への考慮事項」などの記載が大幅に追記されました。副読本の扱いとして「アジャイル実務ガイド」も刊行され、ハイブリッドの定義も「アジャイル実務ガイド」に組み込まれました。
こういった変遷を経て第7版(2021年)にて、開発アプローチに縛られなくなり、「予測型か、適応型か」という2者択一ではなく、自分たちの価値実現に向けて「どちらが向いているか」「どう組み合わせるか」が重要となってきました。
PMBOK®第7版で注目すべきもう一つの大転換は、これまでの「立ち上げ、計画、実行、監視コントロール、終結」の5つのプロセスをもとにした「プロセス重視」の姿勢から、「12の原則」で再整理されたように考え方や原則重視へと大転換されていることです。この「12の原則」ではどのよう事が示されているのか。ここから順に紹介していくことにしましょう。
「誠実さ」「信頼されること」「面倒見の良さ」「コンプライアンス」4つの素養が大切とされ、それをもとにスチュワードシップを発揮することが重要とされています。
専門性重視によるサイロ化や個人への責任の集中を改め、ナレッジ・ノウハウの共有により相互育成し、チームで合意しながら進める。そしてチームでの成果達成を目指し、一緒に作業して相乗効果を上げ、チームごとに独自の文化をつくり上げることを指標としています。
価値の実現を前向きに進めるために、プロジェクトを通して関わるステークホルダーのエンゲージメントを高めていくことが大事であると示されています。
価値がプロジェクト成功の究極の目標であること宣言し、「成果物(What)よりも意図した成果(Why)を重要視する」との考え方を示しています。これは、アジャイルでは良く言われていたことではありますが、予測型においても変わらない原則として定義されました。
木を見て森を見ず(部分最適)ではなく、木を見て森も見る(全体最適)というシステム思考に加え、部分が変われば全体も変わることを意識し、それに対応することが大事であることを示しています。
これまでの唯一のリーダー=プロジェクトマネージャーという固定概念になりがちだったところから、プロジェクトに取り組む人は誰でもリーダーシップを発揮できるということへの転換を表しています。
個々のプロジェクトはすべて独自性があり、だからこそプロジェクトの状況に基づいて自分たちでやり方をテーラリング(選択)すべきだということを示しています。これまでの決められたプロセスを守りさえすれば良いという事だけではなく、自分たちで自分たちの状況に合わせたプロセスを組み立てる必要があるという事であり、今回の大転換の心臓ともいえる原則となります。
従来の品質の対象は成果物にフォーカスしがちでしたが、その成果物を生み出すプロセス自身にも品質という考え方が必要であるという考え方を示しています。
どんなプロジェクトも複雑さからは逃れられない。であるならば、すべて正面から立ち向かうだけが解ではなく、うまく「ナビゲートする=乗りこなす」ことが重要であるという考え方を示しています。
プロジェクト全体のリスクを最初に予測し洗い出し対応し、リストは定期的にコントロールすることだけに留まらず、常にリスクを特定し続け、優先順位をつけ、継続的に対応することを重視し、脅威を下げて好機を活かすようにしていくことを示しています。
変化する状況に対応する能力を示す"適応力"、挫折や失敗を受けいれ迅速に回復する"回復力"を持つことが大切だということを示しています。
第6版までは変化とは管理表等を用いて監視・コントロールする「変更管理」を意味しましたが、これからの変化は望ましい価値を実現する将来の状況へと移行する「チェンジマネジメント」だと考えることだと示しています。
これからはプロジェクト成功のために何を選択するかが大事であり、予測型かアジャイルか、どちらが優れているか、劣っているかではなく、それぞれの特徴を踏まえて、目の前のプロジェクトを成功させるために何を選択するかが大事となっています。
ですが、残念ながらアジャイルを理解し選択肢とできない状態で予測型開発を選択している日本の現状があります。
日本ではアジャイルを理解している人はまだまだ少なく、その現状を打開するためにもこれまで予測型専用と思われがちだったPMBOK®第7版をうまく使ってアジャイルを選択肢として使えるようにしなければなりません。
MSOLでもアジャイルサービスを提供しており、チーム運用支援、組織適用支援、人財育成支援の3つを柱に、その相乗効果で効果的に支援を提供しています。「アジャイルマインドとアジャイルの実践基礎」といった研修コースも用意しており、すでに大手金融系グループシステム子会社支援など多くの実績も積み重ねています。アジャイルについて知りたい、実践したいという方はぜひMSOLまでご相談いただければと思っております。