常に「2歩先のこと」を考える--。プロジェクトマネジメントの現場では、先回りして準備できるかが成否を分ける重要なポイントの1つとなります。しかし、プロジェクトマネジャーやPMOが目先の仕事に目を奪われているとしたら、そのプロジェクトの先行きは危ういです。2歩先を見る担当者を置き、次工程の準備作業を並行して進めなければなりません。
みなさんのプロジェクトで、プロジェクトマネジャーやPMOが目の前にある仕事に忙殺されていないでしょうか。目の前の仕事に忙殺されると、今は何とかプロジェクトが運営できていても、次の工程では必ず混乱を来たします。
鉄道に例えてみましょう。プロジェクトマネジャーとPMOは線路(計画)を敷いていきます。プロジェクトマネジャーは運転手となり、敷いた線路に沿って列車(プロジェクト)を目的地まで導きます。途中で列車が脱線したり、遅延したりしないようにマネジメントするのがPMOです。
さて、ここで少し考えてみましょう。線路(計画)は最初から全て詳細に敷かれているのでしょうか。プロジェクト開始当初に敷かれる線路(プロジェクト計画書など)は、あくまでも青写真に過ぎません。実際に運行がスムーズにできるような線路を敷くためには、日々変わる状況を加味する必要があります。様々な障害物やリスクを考慮して、まずは青写真から実現性のある「路線図(計画のための計画)」を作るべきでしょう。
路線図があって初めて、線路を敷くことができるのです。この路線図を描くのがPMOです。PMBOKでは、プロジェクトの進行とともにより具体的に計画を精緻化していくことを「段階的詳細化」と言っています。
PMOが現在の仕事に忙殺されてしまうと、誰も路線図を描くことができなくなってしまいます。すると、列車は目標への線路自体を失ってしまい、脱線どころでは済まなくなります。つまり、「計画のための計画」を立てることがPMOにとって重要な責務の1つなのです。
それでは、実際のプロジェクトにおいて、計画を立てるための"計画"とはどのようなことを指すのでしょうか。さっと思い付くだけでも、具体的には次のような作業が考えられます。
● テスト計画書など、「計画書を作るためのスケジュール」を作成する
● 次の工程の開始基準や終了基準、具体的な成果物を確定する
● テスト仕様書などの「ひな型」を作成する
● 次の工程での管理手順を検討する
● 次の工程の体制や会議体を検討する
● 環境やインフラなどを事前に整備する
要は次工程の詳細計画を立てるために必要な事前準備と捉えることができます。実際に、計画工程に入った時は、目次レベルは当然のこと、各種のひな型まで全てできていて、プロジェクトメンバーは中身を埋めるだけ、というのが理想的な状態です。
例えば、テストケース表のひな型とテストケース作成基準ができていて、プロジェクトメンバーはテストケースの内容を考えるだけ、といった具合です。プロジェクトメンバーが計画書の内容を埋める頃には、PMOはさらに次の工程の「計画の計画」に着手しているべきです。
PMOが計画のための計画を立てるメリットは、次の4つが挙げられます。
(1)早い段階でリスクを洗い出せるため、リスクに対応する猶予が持てる
(2)考えるべき作業を数人で先行して決めてしまうため、「前の作業が終わらないとその他大勢のメンバーが着手できない」状況を避けられる
(3)作業規模や負荷感を事前に把握できる
(4)重要な決定事項を事前に上位層や顧客に連絡することができる
当然、PMOには現時点でのルーチン業務もあります。この課題に対応するには、PMOの組織に一工夫するとよいでしょう。PMOのメンバーを「2歩先のことを考えるメンバー」「プロジェクトマネジャーと一緒に計画を立てるメンバー」「計画に沿って現場の進捗や課題を管理するメンバー」というように役割分担するのです。これがPMOの組織力を高めるための重要なポイントになるはずです。