進捗会議において、全てが順調であるかのような進捗報告の信ぴょう性を確認せず、報告を鵜呑みにしてはいないでしょうか。世の中、「ウソではないが真実でもない」という報告がまかり通っています。進捗報告において、プロジェクトマネジャーやPMOが進捗の真実を見抜くためのポイントについて考えます。
プロジェクトマネジャーあるいはPMOの立場で進捗会議に参加する場合、みなさんはどのような姿勢で臨んでいるでしょうか。一般に進捗会議には、下記のような大きな目的があると思います。
(1)プロジェクトの進捗状況の共有(上位者および上位組織への報告)
(2)遅延しているタスクに対する対策の妥当性の確認
(3)複数のチームやプロジェクトにまたがる問題の調整
(4)プロジェクトの進捗を妨げる問題の発見と課題やリスクの解決
この目的を達成するために、私が進捗に際して心がけている姿勢は、次のような点です。
(a)言いにくいことを言いやすくする雰囲気作り
(b)報告内容は性悪説を前提に聞く
(c)評論家にならず、解決につながるような提案をする
この3点で一番重視しているのは(b)です。その理由は、報告する立場になって考えてみるとよく分かります。
進捗を報告する人は「少しでも問題がないように報告したい」「無難に進捗会議を済ませたい」という心理状態になっています。報告する立場になったことがある人は心当たりがあると思いますが、「ウソではないが真実でもなく、根拠がない楽観的な報告」をしてしまいがちです。
報告書に「あるタスクが10日遅延している」と記載されていたとします。その際、プロジェクトマネジャーやPMOが「このタスクは10日遅れているが、キャッチアップできますか」と指摘したことに対し、報告者が「メンバーが残業と休日出勤で対応するので問題ありません」と答えたとします。当然ながら、ここで報告者の言葉を鵜呑みにすべきではありません。
● 遅れているのは本当に10日なのか(根拠は何か)
● 残業や休日出勤でカバーするという対応は、本当に正しいのか(根拠は何か)
● 遅れの対応によって、他のタスクが遅延しないのか(根拠は何か)
このように問い返し、「進捗報告に根拠がないことを伝え、担当者に正しい現状を認識させる」ことが重要だと考えています。もちろん、「遅延の原因は誰なんだ」というような犯人捜しをして、悪いことを言いにくくする雰囲気を作るのはNGです。さらに言えば、解決につながるような提案ができなければ、進捗にケチをつけるだけの嫌な人になってしまいます。
このような姿勢で進捗会議を続けていると、報告者は進捗報告に際して、根拠をもって報告するようになってきます。「正しい」根拠をもって報告をすることは、とても重要なことです。
しかし、大きな落とし穴があります。それは、報告者が「都合のいい根拠」を集めるようになる恐れがあることです。ここでPMOは、あえて嫌われ役になる必要があります。
つまり、都合のいい根拠を覆す「都合の悪い根拠」を探して、やはり進捗報告に根拠がないことを明らかにし、報告者に正しい現状を認識させなければならないのです。
品質に問題がある時、担当者はある品質の良い部分の根拠だけを提示して「品質が良いから問題ない」と主張するかもしれません。しかし、よく考えれば分かることですが、成果物の一部が良いからといって、全体の品質が良いという証拠にはなりません。
また、進捗の遅れが発覚した時、ある担当者は「スケジュールに余裕があるので問題ない」と主張するかもしれません。しかし、そのスケジュールは勝手にリスケされた後のスケジュールなのかもしれません。このように、PMOは常に「根拠は何か」を念頭に置いて、慎重に進捗を分析する必要があるのです。
性悪説に基づいた進捗会議ばかり繰り返していると、PMOはメンバーから総スカンを食らってしまいます。孤立してしまう危険性もあります。そこで必要なのは、PMO内での役割分担です。
PMOメンバーのうち1人は、多少嫌われても「プロジェクト成功のために嫌なことを言う」役割を演じる。一方、他のメンバーは献身的にメンバーの相談に乗ったり、進捗報告の後で一緒に対応策を考えたりするなど、メンバーの味方役を演じる(というか、それが本来の仕事です)。そうした役回りと機能を分担することで、組織的に問題をあぶり出し、プロジェクトを推進させることができるのです。
もちろん、プロジェクトのために、進捗会議では少々嫌なことを言わなければならないと理解してくれるメンバーもいます。進捗会議において、「個人を責めない」「批判ではなく建設的な意見を言う」ことを心がけていれば、メンバーも必ず理解してくれると思います。