プロジェクトマネジメントにおいて適切な進捗管理は重要な役割を果たしますが、うまくいかない方が多い現実......。プロジェクトの進捗状況を"事実"としてきちんと把握し、活用をするにはどうすればよいのでしょうか?
本記事では、進捗管理がうまくいかない原因や具体的な事例を紹介しつつ、進捗管理を成功させるための効果的な方法やコツを提案します。前回に引き続き、プロジェクトマネジメントのプロ3人に語ってもらいました。
杉本:どちらも仮説なんですが、1つには優先順位を下げてしまうことがあると思います。「進捗管理自体をそんなに大したことだと思っていない」ということですね。
杉本:もう1つは「タスクを属人化したいという心理的な要因」です。仕事を誰かに奪われると怖い、みたいなところから、進捗に支障が生じていても抱え込もうとしちゃうんです。進捗管理で遅れている自分のタスクを可視化すると、そのタスクはみんなのものになる。それが嫌だという心理的な問題があるんじゃないでしょうか。
杉本:そうです。職人気質と言えば聞こえはいいのですが......そんな傾向がある気がしています。
日本人特有なのかもしれないですけど、「その人がいないと絶対回らない」みたいな状態を作りたがるという印象ですね。休みの取り方とかにもその傾向は見て取れて、例えば欧米とかだとみんな2〜3週間とかのバケーションを取るのが普通だから、みんながその前提で動くんですよ。つまり誰かが2〜3週間抜けてもちゃんと仕事が回る状況を常に作るんです。そういうことができている日本の組織って少ないじゃないですか。その辺に問題がある気がしています。
早川:それは確かにありますよね。
早川:私は経験上2つあるかなと思っていて、1つは「可視化した先の対応が見えない」ということ。もう1つは「可視化によって追加のタスクが発生することへの恐れ」です。
前者はその言葉のとおりで、予定線から遅れているタスクが浮き彫りになったときの対応方法がわからないというものです。これは育成や個人の問題でもあると思うんですが、解決の方法がわからないので、やっても仕方がないと思ってしまっている。
後者は要するに、進捗を可視化すると追加のタスクが発生する可能性が高いわけじゃないですか?みんながすでにタスクを抱え込んでいる状況だと、もう余計なことはしたくないって思うのが人間というもので、ここに進捗管理がうまく行かない原因があると思うんです。しかも可視化することによって明らかになるタスクが、困難なものであればあるほど、言いづらい。これは心理的安全性にも関わってくる問題です。
早川:はい。そうなんですけど、進捗が可視化されて、実行できるレベルまでタスクを分解すると、多くの場合「人を増やさないとどうにもならない」ということが判明します。でも人員の補充が得られないケースも多くて、進捗を上げる側としては「どうせ人増やしてくれないじゃん。じゃあ言いたくない」と思ってしまうんです。
進捗を可視化したことによって問題が解決したという経験を重ねることができれば、解決につながってくると思うんですが、たぶんそこまでいっていないチームが多いんです。「これを言ったとしても誰も助けてくれないじゃん」って思ってしまえば、誰も言いたくなくなります。
早川:そうです。一番ダメなのが報告した結果、「頑張れ」と一言で終わるケースとかですね。「できない」と言っているのに頑張れって......。みたいなことがあると、進捗管理なんてやっても意味ないって思ってしまいますよね。
小宮:早川さんの言っていることはまさにあるあるだと思います。ただ問題の根本は、報告をする方もされる方も、「そもそもなぜ進捗管理をやるのか」をわかっていないことにあると思います。じゃあ何のために進捗管理をするかというと、それは意思決定のためなんですよ。これ以上でもこれ以下でもなくて、予定どおりに進んでいないものがあったら、当然「軌道修正をする」という意思決定をしないといけないじゃないですか。この決定が遅れれば遅れるほど事態は悪化していく。単純な話ですよね。
でも、毎週の進捗報告は意思決定の場であるという大切な部分を、報告する方もされる方も理解していないから、そこが無意味な儀式の場になってしまっているんですよ。「先週はこれをやりました。今週はこれをやります」、「頑張れ」みたいな無意味なやり取りで終わっています。
小宮:本末転倒なんですよ。そもそも報告を受ける側は意思決定する気がない、する側も正直に報告しても意味がないって思っちゃってるから歌舞伎のようなやり取りが繰り返されて、リスクが解決されないままプロジェクトが進行してしまう。
単純な話で、報告を受ける側は意思決定の材料としてヒアリングしないといけないし、報告する側は、具体的に問題を抱えていて、それが自分の権限で解決できないものであれば、それを伝えて解決してくれと言わないといけないんです。でも「本当に危なくなったら言います」みたいに伝えたり、結局最後の最後まで言わなかったりみたいなケースが多いんですよ。
小宮:そうですね。仮に進捗をメンバーに問い合わせて問題が見つかったとしても、裏どりが面倒だから「うまく言っておく」みたいな、誰も救われない報告をあげて終わるんです(笑)
早川:いよいよ本当にまずい状況になってから、その報告が上がるという......
小宮:そう。それで「なんで早く言わなかったんだ!」となって、みんなシーンとなる。いや、前に一度「進捗やばい」って報告は上げているんですけどね、という......よくある話です(笑)
早川:「報告書は美しく抽象化される」って、経営の神様・ドラッカーの本にも書いてありましたよ(笑)
小宮:マネジメント・バイ・ウォーキング・アラウンドでしたっけ。現場を自分の足で歩かないと見えてこないものがあるよ、ということですよね。これをやらない経営層が多すぎるんですよ。社長室とかそういう部屋に閉じこもって、耳障りの良い報告だけ聞いて満足しているんです。
だから、便利なツールがあることによって、ますます現場との対面でのコミュニケーションは希薄になっていますよね。上がってくるテキスト情報だけ見ていては、それがお化粧されていることに気づくこともできません。
杉本:言語化じゃないですかね。プロジェクトメンバー全員、「ここに問題がありそうだ」とか「たぶんこの辺でスタックしちゃっているな」とかって、なんとなくわかっているんですよ。でもなかなかそれを言語化できていなかったり、言語化して可視化されたことの裏付け作業にまで手が回っていなかったりするんです。私たちのような第三者が、メンバーにヒアリングして進捗の遅れを言葉にすると同時に、なぜ遅れが生じているのかという論拠の部分まで言語化してあげると、報告する側としてはちゃんとした説明ができるんですよね。
早川:あとは先ほどの話とも重なりますが、担当者から状況を聞き出してそれを整理してあげるといった部分ですよね。
予定線に対して、「もう間に合わせるの無理じゃない?」ってなっているときに、担当者と壁打ちする感じで細かく聞き出して、「こうすればいいんじゃないか」とか「この部分を報告すべきなんじゃないか」など、情報を整理しつつ意思決定につながる情報にまで仕上がるように提案していく作業です。上がってきた情報に違和感があれば、担当者を捕まえて一つひとつ丁寧に聞き出します。
小宮:まさに情報の可視化と整理は、我々の仕事としてもっとも喜ばれるポイントですよね。可視化していない状態というのは、スピードメーターもガソリンの残量計も何も見えない状態で車を運転しているようなもので、単純にそれって怖くないですか?って話なんですよ。下手すれば後ろに誰か乗っている状態で「なんか左前のタイヤが少しふかふかしている気もするけどまぁ大丈夫か、行っちゃえ」みたいな(笑)何キロ出ているのかも、ガソリン残量も、車の状態もわからないまま、目的地に向かっている。で、いよいよやばいというときにはもうパンクしてしまっている。
「進捗管理をしましょう」というのは「スピードメーターやガソリンの残量計をつけて、車の状態を見えるようにしましょう」って言っているのと同じことなんです。「今時速130km出てて80kmオーバーしてます」ってメーター見ながら説明すれば、納得感があるじゃないですか。
でもこういう当たり前のことって疎かになりがちですし、あらためていうと「そんなことは言われなくてもわかってます」みたいに鬱陶しがられてしまう部分もあって、その辺を私たちが引き受けるというのは、1つ喜ばれる点なのかなと思います。
小宮:あとは繰り返しですが、可視化ですよね。先ほどの車のタイヤの話でいうと、タイヤへの違和感も人それぞれ感じ方が違うので、みんなの共通言語で可視化する必要があります。空気が抜けているとしても「まだまだ走れる」と思う人もいれば、「いや、やばいでしょ」と思う人もいて、そこの感覚をチームで合わせておく必要があります。もっというなら基準値みたいなものを設けられるとベストです。そうでないと精神論になってしまいます。
小宮:当然メンバー間でバックボーンは異なるわけなので、そこをあらかじめすり合わせておきましょうよ、ということですね。
小宮:怒られるからですよ。早い話。皆さんも経験があると思うんですけど、来週月曜日提出の宿題があって、金曜の夜に進捗を聞かれたら、「やばい。土日になんとかすればいいから、なんにもできてないけど進んでますって答えておくか」というあれと同じです(笑)正直に「まだできていません」と言うと「なんで?」とか「終わるの?」とか、「今まで何やってたの?」って言われるのが面倒だから正直に言わない。
もう10年前くらいの話ですけど、とあるお客さまの案件で進捗管理のお手伝いをしていたときに、リーダーが正直に進捗報告を上げたメンバーに対して「そんなネガティブなこと言うなよ」とか言っていて、「なんでそんなこと言うんですか」って聞いたんですよ。そしたらその人「(上を)心配させたくないから」って言うんです。意味がわからないですよね(笑)いや、心配させようよという話です。
でもこれは結構よくあることで、この感覚が染み付いちゃっている組織や人は多いです。
早川:今言わないとこの先もっとひどいことになるから早く言わなきゃ......とわかっていても温める、みたいな状況は確かにありますよね。どういう心理なんでしょうか。
小宮:いや、怒られるからですよ(笑)
早川:それって自分のことしか考えていないじゃないですか。
小宮:そうなんですよ。自分がダメって言われちゃうし、能力が低いって言われてしまうことを恐れているんです。進捗の遅れを伝えて感謝されることなんてないので、ここはもう心理的安全性の問題ですね。
早川:やはり心理的安全性ですよね。
小宮:言ったら詰められるという雰囲気があれば言えなくなりますよ。それは事態が進めば進むほど、「なんでもっと早く言わなかったんだ」って話にもなるし、言ったら言ったで「早く言えよ」ってなるので、「じゃあ言わねーよ!」みたいな。これがもうみんなに染み付いてしまっている。
悪いことは早く言うっていうのは、全体のことを考えればものすごくいいことなのに、それを良しとしない空気ができてしまっている。「空気を読む」とかはまさにそれで、私たちの多くがその感覚の中で生きてきてしまっているんです。だからその空気を壊すようなことを言うと、あいつは変わり者だとか、空気が読めないとか言われてしまうから、ますます言える雰囲気にならないんです。
だから私たちのような第三者としてプロジェクトに関わる人間が、その空気を壊しに行くというか、空気を読まずにそのときに必要なことを遂行するということが求められているのだと思います。
進捗をよく見せようとする心理......というのは、きっと誰しも心当たりがあることだと思います。進捗が芳しくなくても、聞かれたときにはさらっと答えておいて、期限までにはなんとかして涼しい顔でいる。そうできるとかっこいいですし、自分の能力に疑いをかけられずに済みます。しかし、一度その判断を誤ってしまったときのリスクは計り知れません。まして大勢が関わるプロジェクトの場合、意思決定が遅れれば遅れるほど、被害が大きくなることは目に見えています。報告をする側は、少しでも「まずい」と感じたら伝える習慣をつけましょう。杞憂に終わったら終わったで、誰も損をしないで済みます。報告を受ける側は、後ろ向きなことをそのまま伝えて良いという空気を常に作りましょう。進捗の遅れを早く把握できればできるほど、プロジェクトの軌道修正はしやすくなります。
(撮影/音孝典 取材・文・編集/福井寿和、白戸翔)