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業界の専門知識がなくてもPMOはできる?
本記事の読みどころ
多くの人がPMOという職業に対して抱く疑問の1つに「業界に精通しているわけではなくてもマネジメントできるの?支援するには業界の深い知識が必要なんじゃないの?」というものがあります。果たして、PMOは業界の専門知識を持っている必要があるのでしょうか?またはなくても支援可能でしょうか?プロ3人に聞きました。
なぜ業界の専門知識がないのにプロジェクトの支援ができるのか
―――よくお客様から「業界の専門知識がないのにプロジェクトの支援ってできるの?」という質問を受けますが、皆さんはこのことについてどうお考えですか?
津田:プロジェクトの支援に限らず、ほとんどの仕事は人と人とのコミュニケーションの上に成り立っていますよね。そして仕事がうまく進まない原因の多くが、コミュニケーションのわだかまりや澱みにあって、それを見つけられるかどうかは業界知識の有無に関係ありません。PMOにおいてはそこを見つけること、そして見つけた課題の解決策を何通り持っているかの方が重要であると考えています。当然、業務知識や専門知識、お客様の組織内での決定プロセスなどを支援しながらキャッチアップしていく必要はあるのですが、そこは後付けでもよくて、まずはお客様が何に困っているかを見つけることが肝心です。
PM事業本部 津田学
―――松本さんは異業種からMSOLに入られたとのことですが、このテーマについてどう考えていますか?
松本:業界知識に精通していなくてもマネジメントすることが可能である理由は、マネジメント自体が誰もが私生活で意識せずとも行なっている汎用的なスキルだからだと考えています。マネジメントは、「なぜ」それが必要で、それを解決するために「何」を把握する必要があるか、といった「なぜ」や「何」を突き詰めて思考をめぐらせる論理的思考が求められます。例えば、業界のスペシャリストは1つのテーマを深く追求するために専門知識が必要ですが、それに対してPMOは専門家の方々がテーマを追求するのための道筋を整備することが役割です。もちろん、そのためにはある程度の専門知識は必要なので当然勉強をしますが、それよりも論理的思考やコミュニケーション能力の方が重要です。裏を返せば、そういったスキルを備えていればマネジメントすることができるという意味で「業界知識を問わない」と言えます。
―――なるほど。スペシャリストはあくまでお客様であって、スペシャリストとしての道を追求できるように整備してあげるのがPMOの仕事であるということですね。桑原さんはどうお考えですか?
桑原:私もほぼ皆さんと同じです。私たちはマネジメントのプロなので、業界知識はお客様の方が当然詳しくても、マネジメントの部分は任せてくださいということに尽きます。私はイノベーションは非線形のものであり、既存の知識にこだわり過ぎると起こしづらいと考えています。現在、30年間車に乗っていない私がモビリティ業界の支援をしていますけれど、業界としては「今車に乗っていない人」や「車に乗れていないけど乗りたいと思っている人」に車を買っていただく(ないしは利用していただく)必要がありますから、その観点では私の視点が何らかの発見に繋がることもあると思っています。先日はZ世代の方々と業界関係者の方々が話す場を作ったりもしましたが、普段から車に乗る人ばかりを相手にしていると、そのような視点が抜けてしまうことも多いと思います。
PM事業本部 桑原真琴
業界知識のキャッチアップは必須
―――とはいえ、支援をする中でお客様の仕事や業界などの専門知識が必要とされる場面も出てくると思いますが、みなさんはどのようにそれらをキャッチアップされているのでしょうか?
津田:初回のテーマでもお話しましたが、MSOLにはさまざまな業界から人財が集まってきていることに加えて、これまでのマネジメントの実績から多くのナレッジが共有できています。また、長くPMOをやっていると自然と自分なりの人脈が構築されていきます。その人脈をもとに各業界の情報を収集することができ、自らの視野を広めることに繋がることが多いと感じています。これはある意味個人プレーでもありますけど、PMOはそのような人脈ができやすく、それをうまく活用すればたとえ知らないことがあっても、いくらでもそれをカバーしてバリューを出すことができると思います。
松本:私の場合、参画して最初の1〜2ヶ月ほどで業界の知識やプロジェクトの内容など、最低限の知識をインプットしていました。その上で、今回の「業界知識がなくてもPMOってできるの?」という大きなテーマに少し話を戻しますが、営業活動を通して改めてわかったことがあります。それはお客様のお悩みが業界特有の内容ではなく、「進捗管理や課題管理が上手くできない」といった組織やプロジェクトに共通する内容が大半を占めていることです。なので、そのお悩みに対して最適なアプローチをした事例をご紹介すると、ほとんどのお客様にご納得いただけます。もちろん、支援先の業界に関して最低限の知識は必要であり、程度は支援内容や業界によって様々ですが、専門家と同じレベルで知る必要性は低いです。MSOLに求められていることは、あくまでもプロジェクト成功に向けた支援であり、その観点でスペシャリストであるという実績をご提示することが重要だと考えています。
営業本部 松本理咲
桑原:念のために言っておくと、業界知識は最低限必要です。私もモビリティ業界の支援に身を置いていて、「車に乗らない」とか「知らない」とか口では言っていますが、当然その業界について人並み以上には知っています。最低限の知識があるからこそ、違う観点から有益なアイデアをぶつけることもできます。
津田:以前に造船会社に営業に行ったことがあります。造船会社はとてつもなく巨大な橋やプラントなどを作ったりするのですが、「そのマネジメントできる?」と聞かれた時はちょっと焦りましたね(笑)さすがに畑が違いすぎるし、彼らの中で交わされる用語も専門性の高いものが多いので、「厳しいかも......」と。ただ私はIT畑出身で、造船会社のプロジェクトの中にも当然ITに関する業務はあるわけですから、「そういった部分の支援に当たりながら足りない部分はキャッチアップしてやっていきます」ということを伝えました。一方で現実ではその分野の深い知識を有していないと難しいこともあり、その場合は正直にできないと伝えることが大事ですね。
松本:現在工場建設プロジェクトに携わっていますが、リーダーの役割を担っているPMOはできないことを「できる」とは絶対言わず、お客様にも弊社メンバーにも真摯に期待値調整をしています。工場建設はかなり専門的な分野なので、知識面でお客様に追いつかない部分はどうしても出てきてしまいます。専門用語が飛び交う会議も多く、議事録作成1つとっても大変な作業になります。だからといって、そのPMOは知識が追いつかない部分をそのままにせず徐々にキャッチアップして、議事録作成の次はより理解が必要になるファシリテーションを任されるなど、できること及び支援範囲を徐々に増やしています。仮に知識が追いついていなくても、お客様としっかりコミュニケーションを取りながら、フェーズに合わせて期待値を調整していくことが大切であると実感しました。
左からPM事業本部 津田学、営業本部 松本理咲、PM事業本部 桑原真琴
まとめ
PMOにとって支援先業界に関する深い専門知識を有していることは必ずしも求められませんが、最低限の知識は当然必要であり、プロジェクトの進行に合わせて知見を深めていくことが大切です。一方で「マネジメント」は専門的なスキルではなく、一般的なスキルです。だからこそマネジメントのスペシャリストには、プロジェクトにおける普遍的な課題をいかに見つけられるかという課題発見能力、そして見つけた課題をどのように解決するかという課題解決力が高い水準で求められるのです。
(撮影/音孝典 取材・文・編集/福井寿和、白戸翔)
PM事業本部
アカウントマネージャー
桑原真琴
前々職のシンクタンクでは様々なクライアントに対してリサーチ&コンサルティングサービスを提供。2009年から公募により岡山県瀬戸内市の副市長に就任し4年間市政に携わり、大規模プロジェクトの基本計画策定、組織内の仕組改革を実施。退任後、経験を生かして個人でコンサル会社を経営。その後さらに様な人やプロジェクトに関わりたいという思いから2020年3月にMSOLに入社。現在はPM事業本部PM事業部でモビリティ分野のアカウントマネージャーとして活動中。
PM事業本部
アカウントマネージャー
津田学
大学卒業後、国内大手SIerに新卒で入社。公共系案件のシステム開発において、技術および知財法務の観点で支援業務に約8年間従事していたが、その後、公共系案件を横断的に支援するPMO組織に異動し、約3年間PMOとして案件支援に従事する。次第にPMOの魅力や必要性をより意識するようになり、若手のマネジメント人財の育成にも興味を持ち、2020年3月にMSOLへ入社。現在はPM事業本部PM事業部でアカウントマネージャーとして、お客様を支援しつつ、人財育成や組織改革へも積極的に取り組んでいる。
営業本部
インダストリーマネージャー
松本理咲
母の影響で高校生の頃から経営コンサルタントになることを目標に、まずは、必要性の高いIT知識習得とIT全般への苦手意識を克服するために、大学卒業後はSEとして就職。その後、コンサルタントになることを目的に転職活動をする中で、マネジメントという汎用的なスキルを習得できるPMOに興味を持ち、2021年3月にMSOLに入社。約2年間PM事業本部でプロジェクトマネジメントに携わる。案件の始まりを経験すること、様々なレイヤーと接して視点・視座・視野を広げることを目的に、現在は営業本部に所属。お客様への提案営業を主な業務として推進中。