GFR FUND×MSOL 特別セミナーレポート:日米の大企業AI活用最前線とスタートアップの現在地
2026年9月18日、株式会社マネジメントソリューションズ(MSOL)は、GFR FundのGeneral Partnerである筒井 鉄平氏を招き、アメリカ西海岸におけるAI活用の生の実態や、米国大企業・スタートアップの最前線をテーマにした特別セミナーを開催しました。
本レポートでは、日米のAI導入状況のギャップや、シリコンバレーで起きているB2Bスタートアップの動向、そして企業が組織としてAIを使いこなし、成果を出すための「5段階の活用レベル」と具体的なアプローチについて紐解きます。
米国企業におけるAI活用の現在地:「トークン消費」から「成果連動」へ
米センサス局の調査によると、全米企業のAI採用率は約20%ですが、従業員250人以上の大企業では37.9%に達しています。情報・専門サービス産業が約40%と先行する一方、製造業や小売業は10%台にとどまっており、デジタル前提の業務か否かで導入に差が生じています。
初期に見られた「全従業員にいかにトークンを使わせるか」を競う動きは批判を受け、現在では利用上限の設定や、具体的なアウトプット(成果)に紐づけて管理する方針へとシフトしました。
また、企業向けLLM APIの支出シェアは激しく変動しており、2025年にはAnthropic(Claude)が約40%のシェアを獲得し、OpenAI(27%)を逆転して首位に立ちました。さらに直近のデータでは、安価な中国製を中心とするオープンソースモデル(DeepSeekなど)がトークン処理量シェアで36.5%に急増する一方、支出シェアでは8.5%にとどまるなど、コスト最適化の手段として使い分けが進んでいます。

組織としての使いこなし方:米国大企業4社の実例
AI活用を組織に定着させるには、段階的なレベルアップが必要です。スライドでは、本番運用に至っていない「部門導入(レベル2)」から「事業変革(レベル5)」までの事例として、以下の4社が紹介されました。
- JPMorgan Chase(全社基盤に集約): 外部ツールを禁止した上で、社内ゲートウェイ「LLM Suite」を内製。8ヶ月で20万人が利用する環境を整え、年間15〜20億ドルの創出価値を見込んでいます。
- Walmart(対象別に展開): 顧客、サプライヤー、店舗スタッフなど相手ごとにエージェントを分割。現場のシフト計画作成時間を90分から30分へ短縮するなど、現場の時間を大きく変革しました。
- Honeywell(データ基盤の整備): AI導入の前に4,500あったアプリを1,000強に統合しデータ基盤を整備。人が対応する社内チケットを80%削減するなどの成果を上げています。
- Block(組織の作り替え): 極端な事例として、従業員の約半数(4,000人超)を一度に削減。本番環境のコード記述やレビューのほぼ全てを自社のAIエージェント基盤に寄せるなど、組織構造そのものを変革しました。

日米における効果創出と「成果還元」の壁
PwCの調査によれば、AIの「活用・推進中」の割合は日本が87%、米国が90%と推進度合いに大きな差はありません。しかし、「期待を大きく上回った効果」を得ている割合は米国38%に対し、日本はわずか9%にとどまります。また、日本は「まだ効果を評価できていない」企業が13%(米国0%)存在し、評価の仕組みが追いついていない実態が浮き彫りになりました。
日本では雇用慣行の違いから、AI導入による余剰人員を人員整理(早期退職など)に繋げにくく、配置転換(29%)などで対応せざるを得ないため、コスト削減が直接的な財務的還元に直結しにくいという構造的な課題があります。

2026年のVC投資動向:資金は「B2B」の基盤・ツール層へ集中
米国における2026年上半期のVC投資額は、AI分野だけで既に2025年通年を約30%上回る規模(4,127億ドル)に達しています。投資額全体の86%をAIが占める一方で、件数ベースでは43%にとどまり、少数の巨額ラウンドに資金が集中しています。
資金流入はB2B領域に偏っており、B2Cの約5.6倍に上ります。特に、「AI開発ツール・基盤」や「セキュリティ・ガバナンス」といった機能横断的な領域への投資が上位を占めています。
- 営業・マーケティング: 商談からCRM入力を自律実行する「Airspeed」
- 業務自動化: 顧客対応AIの「Sierra」や、売上税計算自動化の「Zamp」
- 製造・産業: CNCプログラミング支援の「Limitless AI Labs」や、物理シミュレーションを1,000倍高速化する「BeyondMath」

次のステップ:日本企業への示唆
本セミナーの締めくくりとして、日本企業がAI活用をさらに進めるための3つのポイントが提示されました。
- データ連携の不可欠さ: 日本全体で導入が遅れているわけではありませんが、さらなる活用の深化には、社内データの統合と連携が必須条件となります。
- 人材再配置の検討: AIを活用すれば、少人数のチームでも極めて大きなビジネスインパクトを創出可能です。余剰となったリソースの再配置を積極的に検討する時期に来ています。
- 埋もれた人材の評価と仕組みづくり: 社内にはAIツールを高度に使いこなせる人材が埋もれている可能性があります。そうしたタレントを発掘し、人事評価に結びつける仕組みづくりが、今後の組織競争力を左右します。
セッション中の質疑応答の様子