「未来から逆算して意思決定する組織」とは—— 元楽天役員・城戸幸一郎氏が語る、熱量の高い組織の作り方
はじめに
AIの進化やデジタル化、グローバル競争の加速などにより、企業を取り巻く環境は急速に変化しています。こうした激動の時代においては、「今うまくいっていること」の延長線上で戦うだけでは、中長期的な成長を維持することは困難です。
いま経営やマネジメントに求められているのは、「未来から逆算して、現在の意思決定を行う視点」に他なりません。
本セミナーでは、ソフトバンクや楽天といった急成長企業で事業拡大を牽引し、現在はスポーツエンパワーメント事業を展開するエンゲート株式会社 代表取締役社長の城戸幸一郎氏が登壇。変化の激しい市場における意思決定、組織づくり、そしてリーダーシップの本質について、同氏のこれまでのキャリアと実践知をもとに深いディスカッションが行われました。
市場そのものが成長する領域を見極め、未来の変化を先回りして事業を構想する。そして、その方向へ組織を動かす圧倒的な熱量を持つこと——。企業変革を推進するうえで不可欠となる「ロジックと情熱のマネジメント」の要諦をお届けします。
成長市場を見極め、未来から逆算して事業を作る
本セッションで城戸氏が繰り返し強調したのは、「未来から逆算する意思決定」の重要性です。
城戸氏はインターネット黎明期のエピソードを挙げ、「ネットで物を買う」という行動は将来的に必ず一般化すると捉え、当時まだ未成熟だったEC市場へ大きく投資していった経験を振り返りました。当時は日本国内での普及率はわずかでしたが、海外市場では既にAmazonやeBayなどが急成長を遂げており、「日本でも同様の変化が確実に起こる」と未来を先読みしていたと言います。
重要なのは、「今どうか(現在の延長線上)」ではなく、「将来どうなるか(未来の必然)」を起点に考えることです。
また、城戸氏はインターネットの本質を「何かと何かを最短距離でマッチングする仕組み」であると定義します。ECとの相性が良いのはもちろん、生産者や小規模事業者が直接顧客とつながれることで、”売り手側のエンパワーメント(能力開花・権利拡大)”にこそ本質的な価値があると整理しました。
この視点は、企業の事業投資だけでなく、個人のキャリア選択にも全く同じことが言えると城戸氏は指摘します。
【キャリア・事業投資における「市場」の捉え方】
• 不確実性を乗り越える「やり切る力」: 成長市場への挑戦にはリスクが伴うからこそ、途中で中途半端に投げ出さず、自ら選択した領域に全力で向き合う。その「やり切った経験」の積み重ねが、次の確固たるキャリアや事業基盤に繋がっていく。
熱量の高い組織を生む、ミッション浸透とリーダーシップ
どれほど正確に市場を見極めても、戦略を具現化し、組織全体を同じ方向へ動かすマネジメントがなければ事業は前に進みません。変革をドライブさせるために必要な「組織論」について、城戸氏は二つの軸を提示しました。
1. 共通言語としてのMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の浸透
楽天時代、組織全体が共通言語を持ち、判断に迷った際には常にその原点(MVV)へ立ち返る文化が根付いていたと言います。共通の価値観がメンバーの隅々まで浸透しているからこそ、現場の意思決定スピードが上がり、組織の一体感が生まれます。
経営者は単なる情報共有にとどまらず、以下の3点を「戦略的発信」として自らの言葉で繰り返し伝え続ける必要があります。
• 「なぜ、私たちはこの方向へ進むのか」(大義・Why)
• 「今、どのような市場変化が起きているのか」(現状認識・Context)
• 「組織として、今何を重視すべきなのか」(優先順位・Value)
2. 再現性のあるリーダーの見極め方
リーダー育成の観点で非常に興味深いのが、成果を出している優秀な人材に対し、「あえて複数の異なる組織を兼務させる」というアプローチです。
• 1つの組織での成果: 環境要因(たまたま市場やメンバーに恵まれた)の可能性がある。
• 異なる組織での成果: 環境が変わっても成果を出せる=「再現性のあるマネジメントスキル」を保持していると判断できる。
このように、属人的な成功に甘んじず、マネジメントを仕組み化できるリーダーを意図的にスクリーニングし、引き上げていくことが組織の強さへと繋がります。
組織づくりにおける「情熱」と「ロジック」の両立
城戸氏は、組織マネジメントにおいてどちらか一方が欠けても失敗すると警鐘を鳴らします。
| 要素 | 欠けた場合のリスク |
| ロジック(市場選定・戦略) | どれだけ組織の熱量が高くても、進むべき市場を誤れば事業は破綻する。 |
| 情熱(ミッション・エンゲージメント) | 戦略が緻密であっても、組織に熱量がなければだれも動かず、変革は絵に描いた餅になる。 |
成長市場を見極める「論理的視点(ロジック)」と、組織を泥臭く前に進める「熱量(情熱)」。この双方を高い次元で両立させることこそが、次世代のリーダーシップの本質です。
スポーツ業界の変革に挑む「エンゲート」の事業戦略
城戸氏が現在代表を務め、まさにこの「未来からの逆算」「ロジックと情熱の両立」を体現しているのが、スポーツエンパワーメント企業であるエンゲート株式会社です。
同社が展開するスポーツギフティングサービスは、ファンがアスリートやチームを直接デジタルギフトで応援できる仕組みであり、現在、国内約150チーム・5,000名規模のアスリートが活用する一大プラットフォームへと成長しています。
この事業の根底にあるのは、「誰もがアスリートを目指せる世界を作る」という強烈な思想(ミッション)です。
従来のスポーツ界では、アスリートは競技成績のみで評価されがちであり、競技を継続するための資金難や、引退後のセカンドキャリアに課題を抱えるケースが少なくありませんでした。エンゲートは、ファンとアスリートが直接繋がり、アスリート自身が発信力を持てる仕組みを構築することで、彼らの経済的・社会的価値そのものを高めていく(エンパワーメントする)ことに成功しています。
同社は現在、日本国内にとどまらず、巨大な大学スポーツ市場を擁するアメリカへの展開を推進。さらに、アスリートインフルエンサーマーケティング事業など、スポーツを軸とした多角的なビジネスモデルの構築へ挑んでいます。単なるファン向けのサービスではなく、「スポーツ界の構造そのものを変革するプラットフォーム」として、その未来図は着実に具現化しています。
おわりに:組織変革を前進させるマネジメントの重要性
変化の激しい時代において、過去の成功体験の延長線上で未来を切り拓くことは不可能です。今回のセミナーで城戸氏から語られた視点は、まさにこれからの時代を生き抜く企業が持つべきコンパスと言えます。
• 将来の市場変化をファクトと本質から見据える視点
• 成長領域へリソースを大胆に集中する意思決定
• 組織へ熱量を伝播させ、共通言語化するリーダーシップ
• 属人化を排除し、再現性を担保するマネジメント
これらは、どれほど優れた経営戦略を立てても、それを現場の「実行」へと落とし込めなければ価値を発揮しません。組織、人材、プロセス、そして日々のコミュニケーションにいたるまで、一貫した“実行の設計”が必要不可欠です。
MSOL(マネジメントソリューションズ)では、経営戦略をただの計画に終わらせず、現場の実行力へと昇華させ、組織変革や事業推進を強力に前進させるマネジメント支援(PMO等)を行っています。「未来起点での組織づくり」や「新規事業の推進スピード向上」に課題を感じられている経営者・マネジメント層の皆様は、ぜひお気軽にご相談ください。
左:城戸氏、右:西田