プロジェクトを失敗させないヒント2『常識ではあり得ないことがまかり通る現場』

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    『プロジェクトを絶対に失敗させない!やり切るための100のヒント』とは

    『プロジェクトを絶対に失敗させない!やり切るための100のヒント』とは

    本記事は、プロジェクトを成功させるために必要なノウハウを、数百の支援実績経験をもとに記述した『プロジェクトを絶対に失敗させない!やり切るための100のヒント』より、 1つずつヒントをご紹介していく企画です。プロジェクトマネジメントについて、何らかの気づきを得るきっかけになれば幸いです。

    当社はプロジェクトマネジメントの知識と経験を有し、皆様のプロジェクトが成功するお手伝いをさせていただいております。 プロジェクトマネジメントに関する疑問や課題がある方、成功への道筋をお探しの方、どうぞお気軽にご連絡ください。
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    ※『プロジェクトを絶対に失敗させない!やり切るための100のヒント』をPDFまたは電子書籍でダウンロードできます


    「会議に30分遅れて来ても平気」「1人日=18時間で見積もる」など、プロジェクトによっては、常識ではあり得ないことが普通にまかり通っています。こうした驚くべき組織文化に遭遇した時は、どんなに高等なマネジメント技法も通用しません。なぜならば、相手には常識が通用しないからです。そんな時PMOは、その根本的な原因を断つことから始めなければなりません。

    以下は、私が今まで目にしたことのあるプロジェクト現場の状況です。みなさんもこのような事態が起こっている現場を見たことはないでしょうか。

    • 仕事の目的が、自分(自分の組織)を守ることになっている
    • 約束や期限が守れないことに、何の罪悪感も抵抗感もない
    • 現場の運用改善に無関心(いくら忙しくても、今の状況を変えたがらない)
    • 会議に平気で30分以上遅れて来る(主催者が時間通りに来ない)
    • 無断で遅刻しても罪悪感がない(当たり前だと思っている)
    • 議事録から不都合なことを削除する
    • 人よりも多く残業することが評価基準となっている
    • 1人日を18時間で見積もる
    • 情報が権力の源となるため、伝えるべき情報を誰にも伝えない
    • 正当な理由で怒られても反省なし。内部会議では顧客の悪口で盛り上がる
    • 悪いことは報告しない(報告できない雰囲気)
    • メールのやり取りの中で、すぐに喧嘩が始まる
    • どの会議に誰が出るべきなのか、誰も分からない
    • 偽装請負の認識が全くない
    • 必要なソフトウェア・ライセンスがなく、試用版を使い回している
    • 困ったら、すぐに「PMOが何とかしろ」と言う
    • タスクの依頼メールのあて先が同報アドレス(とりあえず、全員に投げる)
    • 新メンバーの受け入れ態勢が全くない(放置しっぱなし)
    • 精神的な負荷が大きく、無断欠勤するメンバーが続出する
    • 意味もなくチームが増えたり、減ったりと体制が頻繁に変わる
    • 土日出勤が前提のスケジュールを組む
    • 何を報告したいのかが分からない無駄な資料が多い
    • 会議が、問題解決の場ではなく、顧客から叱られる場となっている
    • 課題管理がされていない(何が課題か分からない)
    • 現実と乖離したWBS(ワーク・ブレークダウン・ストラクチャー)やマスタースケジュールで進捗管理している
    • あるいはWBSやマスタースケジュール自体がない

    上記のような現象が起こっている場合、プロジェクトが順調に進んでいることはまずありません。では、どうしてこのような「普通では考えられない事態」が発生してしまうのでしょうか。

    最初はまともな組織文化を持っていたプロジェクトがあったとしましょう。しかし、プロジェクトが危なくなり、休日出勤や徹夜などが続いてプロジェクトメンバーの士気が低下すると、まさかと思うような習慣が不文律としてプロジェクトに定着してしまうことがあります。

    たとえ優秀なメンバーであったとしても、トラブル続きで日々の業務に追われ、クライアントから毎日叱られてばかりいると、思考力が停止してしまいます。日々、叱られずに乗り切ることが目標となってしまうのです。

    このように一般的な常識が麻痺してしまう現場を、この目で何度も見てきました。普通ならあり得ない行動が、そのプロジェクトでは当然のこととなり、当事者は何の疑問も持たなくなってしまうのです。こんな現場でプロジェクトマネジャーやPMOがどんなに孤軍奮闘しても、暖簾に腕押しの状態となってしまいます。「依頼されたことは責任を持って正しく実施する」という社会人として当然のことができない現場なのですから。

    異常な状態を作った原因を探る

    このような状況に遭遇した時、プロジェクトマネジャーやPMOはまず根本的な原因(現在の状況が習慣として根付いてしまった原因)を断たなければなりません。どんなに素晴らしいプロセスを導入したとしても、すぐに形骸化してしまうことを胸に刻んでおく必要があります。経験上、このような状況になってしまった原因として、多くは以下の3つにたどり着きます。

    1. 怒られたくないから責任を取りたくない
    2. みんながやらない(やってくれない)から自分もやらない
    3. 忙しすぎるから自分のことしか考えられない

    さらに深掘りしてみましょう。

    なぜ、このような考えが悪習として定着してしまったのか、あなたは想像できますか。ある程度の規模のプロジェクトになると、多数のビジネスパートナーが一緒になってプロジェクトを進めるのが一般的です。そのような場合、次のような力関係が存在します。
    発注企業 > 元請けプロパー > ビジネスパートナー > 2次請け > ...

    さらにプロジェクトではプロジェクトマネジャーを頂点として、次のようなラインができます。
    プロジェクトマネジャー > チームリーダー > ... > メンバー

    こうしたピラミッドの上の方に位置する人ほど、組織に対する権限が大きい半面、「組織をダメにするパワー」も大きいと言えます。

    例えば、チームリーダーが当たり前のように進捗会議に10分遅刻して来て、プロジェクトマネジャーもそれが当たり前のようにみなして何も注意しなかったとします。その会議には他のビジネスパートナーやメンバーも同席していました。さて、次回の進捗会議の時、全てのメンバーがきちんと時間通りに集まって来るとみなさんは想像できますか。

    また、リーダーがプロジェクトマネジャーに依頼していた仕事を、プロジェクトマネジャーが忙しくて実施していないことが何回もあったとしましょう。別の機会にプロジェクトマネジャーが急ぎの仕事をこのリーダーに依頼した時、彼はどうするでしょうか。さらに、そのような文化で育ったリーダーが他のサブリーダーやビジネスパートナーからの依頼に対して、どのような態度で対応するでしょうか。容易に想像できると思います。

    このように、悪習は地位や権力があればあるほど、その「まあいいか」がプロジェクト全体に広まっていき、「気が付いたら、どうしようもない悪習になっていた」というケースが頻発しています。外部からプロジェクトに参画するとよく分かるのですが、当事者たちはその文化に慣れきっているため、すぐに習慣を改めることはできません。

    その習慣に浸っていた時間が長ければ長いほど、まともな状況に戻すのは時間がかかります。まだ1つのプロジェクトならどうにかなりそうですが、その会社の文化(悪い意味で)として定着してしまっている場合は、入社以来当たり前のことですから、本人にしてみれば少しもおかしいこととは思っていないのです。

    このようなプロジェクトを立て直す時、どんなに立派なツールやプロセスを導入しても意味はありません。一番必要なのは「当たり前のことを当たり前にやる」ことです。

    つまり、「依頼されたことは責任をもって正しく実施する」という社会人としてのルールを、プロジェクトマネジャーなどのトップ自らが率先して実践することです。そして、ルールを破った人をきちんと注意することを徹底していくしかありません。

    先に述べたように、怒られたくないから「まあいいか」、みんながやらないから「まあいいか」、忙しすぎるから「まあいいか」という考えを撲滅しなければなりません。PMOなどのマネジメントに関わるリーダーとしては、プロジェクト運営に必要な「当たり前のこと」を明確にして、地道に啓蒙していく必要があります。

    それは本当に単純なことです。「会議の時間には遅れずに集まりましょう」とか、「自分のタスクは期限までに実施して、できない場合はその旨を早めに相談しましょう」とか、「怒られるからといって、進捗報告にウソを書くのはやめましょう」とか。一見当たり前のようなことを繰り返し周知して、定着していくことから始めなくてはなりません。そのような土台ができて初めて、管理プロセスの導入やプロジェクトマネジメントツールを有効に利用できるのです。

    プロジェクトマネジャーが率先して襟を正す

    とはいえ、今までの習慣を変えることは一朝一夕にできることではありませんし、このような愚直な啓蒙作業を続けて変化を引き起こすのにも限界があります。そのような時は、「プロジェクトマネジャーを管理型スタイルの厳しいプロジェクトマネジャーに交代させる」「経営層に訴えかけて現場の雰囲気を引き締める」など、外からの力をうまく利用してドラスチックに現場を変えることも視野に入れるべきです。

    ただし、頼りにしたいトップ層でも自覚や危機感が全くない場合も多く、そんな場合はトップ層の啓蒙から根気強く始めなければいけません。これは頭の痛いところです。

    様々なプロジェクトに参画した経験から言って、「当たり前のことが、当たり前にできる」現場は、よほどの外的要因がない限り、危機的状況にまで追い詰められることはありません。「当たり前のことが、当たり前にできなくなった時」をプロジェクトの危険信号とみなし、当たり前のことができなくなった理由を突き止め、早急に解決すべきです。