全社のプロジェクトを横串で見る組織(いわゆる全社PMOやプログラムマネジメント)をどう効率よく回していくのかという悩みは、どの組織にもあります。本書では個別プロジェクトにおけるPMOに重点を置いて述べていますが、ここでは組織的なプロジェクトマネジメント(プログラムマネジメント)をうまく回すコツについて考えてみましょう。
最初にプログラムマネジメントの定義について触れておきます。PMI(プロジェクトマネジメント協会)が発行している『プログラムマネジメント標準 第2版』には、「プログラムマネジメントとは、プログラムの戦略目標とベネフィットを達成するため、プログラムを集中的に調和された方法でマネジメントすることである。プログラムマネジメントには、プログラムの目標を達成するために、コストやスケジュールおよび活動を最適化または統合して、複数のプロジェクトの整合性を保つことが含まれる。プログラム内のプロジェクトは、共通の成果や統合された成果を生み出す関係にある。~中略~プログラムマネジメントは、プロジェクトの相互依存関係に焦点を当て、それらをマネジメントする最適の方法を決定することを助ける」とあります。
分かりやすく言えば、「企業が成長するために発生した様々な個別プロジェクトの関連性の可視化、最適化を行い、各プロジェクトの成果の総和が全体の成果につながるようにマネジメントすること」という感じです。
これまでのプログラムマネジメントの導入現場での経験を基に、プログラムマネジメントを成功させる5つのポイントをまとめました。
ここでいう「トップダウン」とは、プログラムマネジメントからの立場(プログラム・マネジメント・オフィス)、「ボトムアップ」はプロジェクトマネジメント(プロジェクト・マネジメント・オフィス)からの立場を指します。プログラムマネジメントを実施するうえで重要な点は、各プロジェクトの現場の要員とプログラムマネジメントを行う要員が連携しながら、マネジメントを進めていくことです。
ありがちな失敗パターンは、プログラムマネジメントのみに力を入れてしまうことです。いくらトップダウンでプログラムマネジメントに力を入れたとしても、個別のプロジェクトの見える化や、リスク管理や課題管理のエスカレーションプロセスがない現場においては、プログラムマネジメントに情報が入ってきません。こうした情報不足の状況では、プログラム・マネジメント・オフィスが単なる「ご意見番」になってしまう危険性があります。
次に必要なことは、プログラムマネジメントを推進する際の「トップマネジメントによる強いリーダーシップ」です。プログラムマネジメントを推進する際に現場の協力は不可欠ですが、現場はやはり、変化や管理されることに少なからず抵抗します。
その抵抗を抑える切り札として、トップマネジメントからの強いリーダーシップに勝るものはありません。そのような心強い後ろ盾があってこそ、プログラムマネジメントに取り組むメンバーは様々なステークホルダーに対して利害調整をすることができるのです。
これは、PMOのメンバーにもいえることですが、プログラムマネジメントを行うメンバーになった場合、そのキャリアが会社の中で確立されているのかどうかは重要です。特にIT系の会社の場合、プログラマーやシステムエンジニア(SE)、プロジェクトマネジャーというキャリアパスはあっても、「プログラム・マネジメント・オフィサー」という地位は、本流のキャリアパスとして定義されていないことが多いのではないでしょうか。
そのようなキャリアがない会社でプログラム・マネジメント・オフィスに配属された場合に、自分のキャリアや評価に対して不安を抱く危険性があります。また、そもそもこのような職種にはどのようなスキルが必要なのか、明確に示している企業はまだ少数だと感じています。
会社として正式にプログラム・マネジメント・オフィスを作ったものの、周りの組織、特に個別のプロジェクトのメンバーからは「いったい何をする組織なのか」と、その活動内容がよく知られていない場合があります。
実際、現場のプロジェクトマネジャーからすると、「単に報告先が1つ増えるだけ」「余分な説明資料を作らなければならなくなった」とネガティブに受け止められるケースが大半を占めます。そうならないためには、プログラムマネジメントを行う組織が何をするのか、成果は何なのか、どのような責任を負い、どんな権限を持っているのかを明確にする必要があります。
よく勘違いされるのは、プログラム・マネジメント・オフィスを作れば、すぐに成果が出てくると思われがちなことです。このような組織は、複数のプロジェクトを横串で管理することを繰り返すなかで、その業種・業態、企業文化に合った効率的な運用を、試行錯誤しながら作り上げていくものです。一般的には、2~3年かけて成果を見ていく必要があり、長期的な視野で取り組むことが重要です。
また、成果をKPI(重要業績評価指標)や成熟度の指標として数値化し、あるべき姿に少しずつ近づけていく地道な努力も必要となってきます。すぐに効果が出ないからといって、同じような組織を幾つも立ち上げてしまうようでは、本末転倒です。