プロジェクトを失敗させないヒント29『「失敗の本質」に学ぶ』

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    『プロジェクトを絶対に失敗させない!やり切るための100のヒント』とは

    『プロジェクトを絶対に失敗させない!やり切るための100のヒント』とは

    本記事は、プロジェクトを成功させるために必要なノウハウを、数百の支援実績経験をもとに記述した『プロジェクトを絶対に失敗させない!やり切るための100のヒント』より、 1つずつヒントをご紹介していく企画です。プロジェクトマネジメントについて、何らかの気づきを得るきっかけになれば幸いです。

    当社はプロジェクトマネジメントの知識と経験を有し、皆様のプロジェクトが成功するお手伝いをさせていただいております。 プロジェクトマネジメントに関する疑問や課題がある方、成功への道筋をお探しの方、どうぞお気軽にご連絡ください。
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    ※『プロジェクトを絶対に失敗させない!やり切るための100のヒント』をPDFまたは電子書籍でダウンロードできます


     

    人情を重んじるとプロジェクトが失敗する確率が高くなると言います。感情に支配され、客観的事実から目をそむけてしまったら、プロジェクトはたちまち失敗へと向かうでしょう。しかし、人は感情の生き物です。人情や感情を無視したら、モチベーションは絶対に上がりません。このトレードオフの均衡点はどこにあるのでしょうか。

    『失敗の本質─日本軍の組織論的研究』という有名な書籍があります。この本には「失敗はなぜ起きてしまうのか」という多くのメッセージが詰まっています。それはまさにプロジェクトマネジメントに携わっている人にとって、プロジェクトを失敗させないための珠玉のメッセージです。私がこの本を読んで「プロジェクトマネジメント」と「失敗を引き起こす感情」という視点から考えたことをお伝えします。

    『失敗の本質』では、失敗を避けるために「体面、人情、組織内の融和と調和を重んじてはならない」としています。その理由は感情に流されやすくなり、結果、客観的事実を無視(軽視)して「目的や実現性が乏しい計画」を実行に移してしまうといいます。さらにリスク管理も甘くなります。つまり、体面、人情、組織内の融和と調和を重んじると、失敗する確率が高くなるというのです。

    これをプロジェクトマネジメントに当てはめて考えた時、私はまず、人は感情の生き物であり、それを無視してしまったらモチベーションと生産性を著しく低下させてしまうのではないか、と感じました。それ故、感情を全く無視してしまうのは問題があると思います。

    調和を大切にすることは、組織が持っている「組織感情」、言い換えれば、プロジェクトの雰囲気を風通しの良い状態にすることに大きく貢献していると思います。しかし、この体面、人情、組織内の融和と調和を重んじるということは、もろ刃の剣です。「感情に訴えれば許してもらえる、見逃してもらえる」という甘えの文化を醸成してしまう恐れがあるからです。

    人情に訴えて許しを請う場面に、みなさんも出合ったことがあるはずです。例えば、進捗会議で「徹夜して頑張ったのですが(こんなに頑張ったのに文句を言うのか! 努力を認めないのか)」とか、「3回以上レビューを実施したんですよ(だから、多少のミスが見つかっても仕方がないでしょ)」といった発言をよく耳にするのではないでしょうか。

    人情に流されると、どうなるか

    心の声を「察する」とか「空気を読む」というのは、いかにも日本的なコミュニケーションです。こうしたコミュニケーションがプロジェクトの目的達成の助けになるなら、どんどん相手の立場になって「察して」あげるべきですし、それによって効率よく仕事が進むはずです。

    しかし、多くの場合、「これは目的に対して悪いこと」と分かっていても、人情に流されて見逃してしまう、あるいは、許してしまうことになってはいないでしょうか。人情に流されると客観的事実を無視してしまい、あたかも「奇跡が起こる」ことを当然のように期待してしまいがちです。

    客観的事実が軽視され、感情に訴えかけられている場合、大抵の当事者は失敗することを想定していません。ですから、失敗した場合にどうするかも考えていません。プロジェクトマネジメントで言えば、リスク管理ができていない状況といえるでしょう。

    そういう人の多くは、過去に危機的な状況を精神論で乗り越えた経験を持っています。それが成功体験となり、自分で選択幅を縮めてしまっています。似たような状況のプロジェクトを5回経験し、そのうち4回失敗しているにもかかわらず、残りの1回が成功してしまえば、それが「成功体験」として心に強く焼き付いてしまうのです。その成功した1回にしても、「失敗が覆い隠され、成功したように見えるだけ」とか、「神風が吹いて状況が奇跡的に変わっただけ」というケースもあります。そこに失敗から学ぶ気持ちは生まれず、「奇跡」に助けられたこともすぐに忘れてしまいます。

    客観的な事実に基づいた行動を促す一言

    それでは、人情や感情に訴えられた場合、どうすればいいでしょうか。ポイントは感情と客観的事実のバランス感覚だと思います。

    感情を全く受け付けないと、プロジェクト運営に必要な信頼関係やモチベーションに支障を来します。メンバーが人情や感情に訴えてくる背景には、案外「頑張っていること」「努力していること」を認めてほしい気持ちも多くあります。頑張りや努力を大いに認めて共感することは大切です。

    一方、実際の行動は、言うまでもなく「客観的事実」に基づいて決定すべきです。これができなければ、プロジェクトマネジメントではありません。問題は、感情に支配された当事者たちをいかに説得するかです。

    重要なのは、リスク管理の考え方です。「1回あなたの言う通りにやってみましょう。ただし、来週金曜日までにここまでの作業が終わらなかった場合を考えて、一緒に対応策を考えませんか」と持ちかけ、コンティンジェンシープランを作ってみてください。まずは相手の意見を受け入れましょう。

    その代わり、致命傷にはならないようにチェックポイントを設定し、そのチェックポイントをクリアできなければ、別の方法を潔く実施してもらいます。PMOとして、相手の感情と客観的事実のバランスをうまく取るように心がけてください。