PMOには、失敗から学び、学習していく組織を作る責務があります。もし同じような失敗を繰り返しているようなら、それはPMOの怠慢による結果と受け取るべきです。プロジェクト運営に「失敗学」を生かし、「現地・現物・現人」による失敗原因の究明や「悪いことこそ進んで言える場作り」を目指してみてはいかがでしょうか。
プロジェクトを運営していくなかで、小さな失敗から大きな失敗まで、様々な失敗を経験します。みなさんはそれらを「良い失敗」なのか「悪い失敗」なのか、見極めているでしょうか。
「失敗から学び、失敗を未然に防ぐ」ことを追究する考え方として、工学院大学教授で東京大学名誉教授の畑村洋太郎氏が「失敗学」を提唱しています。失敗学によれば、失敗は良い失敗と悪い失敗に分けて考えられます。
良い失敗とは、予知できなかった防ぎようのない失敗で、同じ失敗を繰り返さないための教訓になるものです。逆に悪い失敗とは、防ぐことができた失敗、言い換えれば一度経験している失敗ということになります。PMOも良い失敗からは教訓を学び、悪い失敗を未然に防ぐという、いわゆるリスク管理の能力が求められます。
進捗確認の場で失敗が報告された時、あなたなら、どのような行動を取るでしょうか。次のような行動を思い浮かべる人が多いと思います。
どの行動も間違っていません。ただ、担当者の報告内容を鵜呑みにしているとしたら、問題があるでしょう。
もしかしたら、現場の状況は報告内容よりもひどい状況かもしれません。また、報告や対応策が適切かどうかをチェックするとしても、表面的な数値(バグ数など)で安易に判断していたら、やはり問題です。数値から分かるのは、現場の一部の状況に過ぎないのですから。
残念ながら、ほとんどの現場で、このような過ちを犯しています。失敗の原因分析と対応策の立案を現場の担当者に任せてしまい、対応状況だけを管理しようとしています。
こう書くと、「マネジメント層だからといって、全ての報告や対応策が正しいかどうかまで確認できるわけがない」と思うかもしれません。確かに、その通りのことを実行しようとしたら、非現実的だと思います。しかし、重要なものだけに絞り込めば、確認は可能です。プロジェクト運営に関わる重大な失敗としてエスカレーションされた事項については、マネジメント自身が原因究明に関与し、本当に正しい対応策かどうかを判断すべきです。
失敗の原因を究明し、対応策が正しいかを見極める際に役立つのが、失敗学でいう「三現」という考え方です。三現とは「現地・現物・現人」のことで、失敗学において原因究明は三現で実施すべしというガイドラインがあります。例えば、設計書通りにシステムができ上がっていないという問題が発生したとします。このケースで三現による原因究明は、以下のようになります。
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現地:開発の現場に実際に行って、自分の目で何が起きたのかを確かめる
現物:成果物の実物(設計書やシステムそのもの)を自分の目で確認する
現人:問題を起こした本人(設計者や開発者)に直接確認する
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三現で確認した原因に対して、適切な対応策が立てられているかが重要だということは言うまでもありません。なぜ三現について述べたかというと、PMOだからこそできる役割があるからです。
PMOの役割の1つに「マネジメント層と現場をつなぐこと」があります。その意味において、PMOはエスカレーションされてきた重大な失敗の報告に対して、現地・現物・現人で確認ができる最適な組織なのです。「ロジックツリー」や「特性要因図」による机上での問題解決も役に立ちますが、現場に入り込んで問題解決を行う行動力こそ、PMOに求められる重要な能力の1つなのです。
失敗学においてもう1つ大切なことは、「人」ではなく、起きた「こと」に注目するという点です。大きな失敗をしてしまった時、「誰が悪い」という責任問題をつい先に考えてしまいがちです。しかし、プロジェクトを円滑に推進するためには、責任問題はいったん置いておいて、起こってしまった「こと」に注目することが必要になります。
また、失敗した人にばかり注目してしまっては、ネガティブなことを進んで言えなくなる組織になってしまいます。「罪を憎んで人を憎まず」という雰囲気を作り、「悪いことこそ進んで言える場」を作っていくことも、PMOの大切な役目です。
最初から失敗を1つもしない完璧なプロジェクトなど存在しません。どんなプロジェクトでも必ず失敗は発生します。様々なプロジェクトの良い失敗から教訓を1つでも多く蓄積し、悪い失敗をいかに事前に防ぐことができるかが大切なのです。言い換えれば、PMOのこのような地道な活動は、他の多くのプロジェクトを成功に導くための大きな貢献でもあるのです。