プロジェクトの見える化を通して得られる情報と指標をプロジェクトのゴールに結び付け、ツリー化して管理する。この取り組みで、見える化の効果は一段と高まります。ツリー化で大事なことは、プロアクティブな行動や管理工数の適正化につながるように、ツリーを定義・定着させることです。今回は、このツリー化の検討方法について、3つのステップに分けて説明します。
最初のステップでは、どのプロジェクトにもあるはずの「プロジェクトのゴール」を改めて設定します。以下の図をもう一度見てみます。この例では、プロジェクトのゴールを「期日までに成果物を完成させる」としています。
プロジェクトのゴールは、プロジェクトによって異なるはずです。あなたのプロジェクトでは「新商品を来春までに投入すること」かもしれませんし、「業務改革を達成すること」かもしれません。あるいは「新システムを稼働させる」かもしれません。
また、ゴールは1つではなく、「期日通り」「予算内で」「自社の最高品質で」といった複数のものがあると思います。複数のゴールが、プロジェクト憲章としてステークホルダーから承認されているのであれば、プロジェクト憲章に従ってプロジェクトのゴールをツリーに設定しましょう。
ゴールを設定したら、続いてゴール達成のために重要と考えられるKPIを挙げていきます。先の例では「期日までに成果物を完成させる」というゴールに対して、「タスク進捗率」「作業スコープ増減」を挙げています。
ゴールを達成するために必要な要素を分解し、それを管理するための指標を考えることになります。この要素分解はゴールの意味をよく考え、ゴールを達成するにはどうしたらいいかを突き詰めていくと次第に明確になってきます。
例えば、「期日を達成する」とはどういうことかを考え、「期日を達成する」→「タスクを作業予定通りこなしていく」→「計画した作業を計画した作業予定に従って遂行する」となり、「計画した作業を計画した作業予定に従って遂行する」を管理するために、「タスク進捗率」が設定されます。加えて、「計画した作業」が計画通りであるという前提が崩れてしまうとゴールが達成できなくなると考え、「作業スコープ増減」を設定しています。
KPIを設定できたら、そのKPIに影響する「管理指標」、さらにそれら管理指標に影響する「活動指標」と段階的に詳細にしていきます。このようにして、プロジェクトの管理指標をツリー化していきます。
プロジェクトのゴールに対し、どんな情報と指標が影響を与えるのか。その因果関係をメンバー全員に見える化すると、各メンバーからプロアクティブな行動を引き出しやすくなります。これが見える化の一歩進んだ形です。
ここで、プロジェクト管理工数の適正化にも目配りします。立派なツリーを作れたとしても、管理すべき情報と指標が多すぎると、余計なコストがかかります。管理すべき情報と指標をツリーで見える化しておくと、その取捨選択が容易かつ適切なものになることは言うまでもありません。
さて、上記のようにロジカルに指標を考えていくことは、情報と指標の関連を明確にするうえで重要です。とはいえ、経験豊富なプロジェクトマネジャーやPMOであれば、これまでの経験に基づき、感覚的に必要だと思う管理情報を挙げてしまっても、一向に構いません。その感覚が大きくズレていることは少ないものです。仮にズレがあったとしても、次のステップで修正されるため、特に問題はないと考えられます。
最後のステップでは、ステップ(2)で作成したツリーを基に、関係者間で意識合わせをします。この意識合わせの目的は「リスク管理と同様に、感覚的な部分を関係者ですり合わせて、感度を合わせる」「ツリー化した情報をプロジェクトで管理すべき情報として合意を得る」の2つです。
1つめの感覚的な部分とは、例えば「進捗率50%とはどういう状態か」「関連部門の関与度が高い状態とは、どんな状態か」など、人によって解釈に幅が生じる部分です。
プロジェクトの見える化を通して得られる情報と指標には、こうした感覚的な部分を多く含むものがあります。関係者間で、「テスト工程でここまでできたら進捗率50%とする」という意識合わせをして、解釈がブレないようにしなければなりません。これが感度を合わせるということです。
ツリー化した情報は、ツリー作成者の考えや経験に基づいて作成されています。論理的に考えていても、結果として主観的になっている可能性があります。また、他の関係者の考えや経験をツリーに織り込むことで、ツリーの精度を高められます。プロジェクト管理する情報について、重要性や関連性の感度を合わせることで、実際に使えるツリーになると考えます。
ツリーに関する意識合わせは、上記の目的に加え、2次的な効果もあります。プロジェクトの関係者が「ゴール達成のために必要なことは何か」を深く考える場を提供することです。