プロジェクトマネジメントのヒント

プロジェクトを失敗させないヒント54『プロジェクトの制約条件のバランスを取る』

作成者: MSOL|Nov 26, 2024 5:35:36 AM

PMBOKによると「プロジェクトマネジメントとは、品質、スコープ、時間、コストなど、競合する要求のバランスを取ること」です。しかしPMBOKには、具体的にどうバランスを取るのかまでは記されていません。現実には、うまくバランスを取ることと、あえてバランスを崩すことを、臨機応変に考えなければなりません。

PMBOKでは、プロジェクトの制約条件を以下のように書いています。「プロジェクトマネジャーは、競合するプロジェクト要求事項をマネジメントする場合に、プロジェクトスコープ、時間、コストの制約3条件に言及することが多い。プロジェクトの品質は、これら3つのバランスを取ることで決まる。高品質のプロジェクトは、スコープの範囲内で、納期通りに、予算内で、必要なプロダクト、サービス、または所産を提供する」。

分かりづらいかもしれませんが、要するに「プロジェクトスコープ、納期、予算、品質(以下、プロジェクト制約条件と呼ぶ)のバランスを取って、プロジェクトを運営すべきだ」ということです。もちろんPMOも、これらの制約条件のバランスを取りながら、プロジェクトを運営する責務を負っています。

それでは、どのようにして、バランスを取ればよいのでしょうか。機能要求の膨張を防ぎ、スケジュール管理、コスト管理、品質管理を厳密に行えば、バランスが取れたプロジェクト運営ができるのでしょうか。みなさんは現実に、下記のようなプロジェクトが可能だと思いますか。

● 当初定義した機能要件が全く変わらないプロジェクト
● 全てのタスクがスケジュール通りに進んでいるプロジェクト
● 最初に計画した予算通りに費用が発生しているプロジェクト
● 計画書で規定した通りの品質で成果物ができているプロジェクト

プロジェクトスコープ、納期、予算、品質の全ての要素が予定通りに進むことなど、ほとんどないと言っていいでしょう。これらの要素は互いに影響し合っているため、どれか1つの要素に予定外のことが発生したら、その時点でプロジェクト制約条件のバランスは大きく崩れてしまうのです。

リスク管理の下でバランスを保つ余裕を作る

プロジェクトにおいて、全てのプロジェクト制約条件を予定通りに完璧に保つのは無理です。一般的な対策としては、計画時点でコストやスケジュールに余裕を持たせておく方法があります。その余裕が機能追加や品質悪化によるスケジュール遅延などの変化を吸収して、バランスを保つ役割を果たします。

しかし、納期短縮やコスト圧縮が重要視される昨今、そのような余裕は簡単には認めてもらえません。しっかりした根拠と、適切にマネジメントできることを示す必要があります。

そこで、リスク管理が重要になってきます。プロジェクトで発生する不確定要素に対し、予算やスケジュール面で「何となく」余裕を持たせるのではなく、しっかりとしたリスク管理を計画・実行しなければなりません。

リスクを金額換算して、「プロジェクトリスク費用(あるいはスケジュールのバッファー)」としてプロジェクトの全体予算に組み入れるべきなのです。リスク費用の根拠をはっきりと示せば、抵抗なく認めてもらえると思います。

逆にリスク費用が認められないようなプロジェクトがあれば、それはかなり危険なプロジェクトだと判断するべきです。プロジェクトリスクを金額換算する方法は「リスクが発生した時に発生するコスト×発生確率」で見積もるなど、様々な方法があります。

既知のリスクにはリスク費用やスケジュールバッファーを取ることができますが、未知のリスクが発生した場合にはどうしようもありません。そのような時に必要なのは、「バランスを取ることにこだわり過ぎないこと」です。プロジェクトの特性によって、プロジェクトスコープ、納期、予算、品質について優先順位を付けておき、関係者全員でその優先順位について合意しておくことが重要です。

制約条件のバランスをあえて崩す

人の命に関わるような商品を作っているプロジェクトの場合、納期やコストが多少オーバーしても中途半端な品質のものは作れないはずです。また、法改正などでどうしても期限までに対応が必要なプロジェクトの場合は、機能を多少削っても納期を優先すべきなのです。

PMBOKには、「万が一の時は制約条件のバランスを崩しましょう」などとは書かれていません。PMOは基本を大切にしながらも、時には臨機応変に、優先順位に基づいて制約条件のバランスを崩すことを考えなければなりません。そして、プロジェクトマネジャーをはじめとする関係者に、それを提案する能力が求められます。