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プロジェクトを失敗させないヒント74『プロジェクトの健全性を測るモノサシ』
『プロジェクトを絶対に失敗させない!やり切るための100のヒント』とは

本記事は、プロジェクトを成功させるために必要なノウハウを、数百の支援実績経験をもとに記述した『プロジェクトを絶対に失敗させない!やり切るための100のヒント』より、 1つずつヒントをご紹介していく企画です。プロジェクトマネジメントについて、何らかの気づきを得るきっかけになれば幸いです。
当社はプロジェクトマネジメントの知識と経験を有し、皆様のプロジェクトが成功するお手伝いをさせていただいております。 プロジェクトマネジメントに関する疑問や課題がある方、成功への道筋をお探しの方、どうぞお気軽にご連絡ください。
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※『プロジェクトを絶対に失敗させない!やり切るための100のヒント』をPDFまたは電子書籍でダウンロードできます
進捗報告からは何の問題もないように見えるプロジェクト。しかし、見えないところで病魔がプロジェクトをむしばんでいることもあります。では、プロジェクトの状態が本当に健全かを調べる方法はあるのでしょうか。情報の質や動きに注目すると、プロジェクトの健全度を測ることができます。
多くのプロジェクトでは日頃、進捗状況をEVMやWBSで管理しています。しかし、これらの定量的な情報だけでは、プロジェクトの真の状態が見えてきません。『[ヒント50]見える化では見えない予兆をつかむ』でも述べた通り、定性的な情報の把握も非常に重要です。日々の活動で得られた定性情報から課題やリスクを抽出し、管理表を使って見える化していきます。
それでは、プロジェクトが健全かどうかを知りたい場合に、何を基に判断すればよいでしょうか。進捗や課題、リスクといった定量・定性情報から、プロジェクトの健全度を測ることはできるのでしょうか。
品質的に問題がなく、予算の範囲内にコストが収まっていて、予定していたスケジュール通りに作業が進んでいる状態であれば、問題がないとする考え方があります。これは、いわば「過去」のプロジェクト活動によって生じた、ある時点における状態(結果)を基に判断する方法です。
一方、今後の作業進捗に影響を及ぼすような「課題」や、今後のプロジェクトの推進に関わるような「リスク」によって、プロジェクトの状態を判断する考え方もあります。緊急かつ重要な課題やリスクがなければ、プロジェクトに問題がないと判断する考え方です。これは過去の結果よりは、現時点から見た「将来」にフォーカスした考え方です。
2つの考え方は、どちらも重要です。見ている方向が過去か未来かの違いだけです。これらの手法やツールは、プロジェクトの状態を見える化し、管理ポイントごとの状態や問題の所在を明らかにしてくれるでしょう。その意味では、非常に有効といえます。しかし、プロジェクトが健全かどうかを、本当に判断できるでしょうか。注意しておきたいのは、見える化された過去や将来の定量・定性情報は全て、プロジェクトマネジャーのもとに「顕在化したもの」だという点です。
言い方を変えれば、顕在化したものしか把握できていないのです。この事実は重要な意味を持ちます。人は一部でも顕在化した情報を受け取ると、それで安心してしまう傾向があります。しかし、実際には顕在化していない情報の方が多いものです。ある担当者が問題や課題を認識していたとしても、それが誰かに伝わって最終的に管理責任者や意思決定者に伝わらない限り、それは顕在化した状態とは言えないのです。この点をしっかりと意識して、落とし穴にはまらないようにします。
情報の鮮度と質を維持して「Bad News First.」で
つい先週まで「特に問題ありません。順調です」という報告があり、WBSや課題管理、リスク管理上でも問題がなかったチームがありました。しかし、翌週になって急に「遅れています」とか、「品質が悪化していて納期に間に合いそうもありません」といった状況になったとします。原因は何でしょう。
当事者であるチームメンバーは、実際は問題があることを認識していながら、「次週までには何とかなる」と思い込み、「順調です」と報告していたのかもしれません。あるいは、チームメンバーとチームリーダーのコミュニケーションが悪く、リーダーに正しい情報が伝わっていなかった可能性もあります。原因は色々考えられますが、このような状態はコミュニケーションラインのどこかで「情報の断絶」が起こっている状態であり、とても健全とは言えません。
情報は正しい内容で迅速に意思決定者に伝わってこそ、意味があるのです。言い換えると、「問題が発生してから、プロジェクトマネジャーやPMOが問題を把握するまでの時間が短い」ということが重要です。もちろん、その情報が確かなものである必要があり、正確性も重要な要素になります。報告内容にプロジェクトメンバーの状況認識がどれだけ反映されているか、という情報の鮮度(迅速性)と質(正確性)が健全度を表す1つのバロメーターになります。
ここで言う情報には、良い情報もあれば悪い情報もあります。良い情報だけ聞こえてくると、「本当だろうか」とか「何か隠しているのではないか」という疑念を抱くことになります。反対に悪い情報だけ聞いていると「この先、大丈夫か」と不安になってきます。つまり、良い情報も悪い情報も包み隠さず正しく伝わって、初めて意思決定者が判断できるのです。
ただし、情報を伝えるスピードに関しては、「Bad News First.」を肝に銘じる必要があります。良い情報は少々遅れて伝わってもそれほど影響はありません。しかし悪い情報は、伝わるのが遅れると致命傷になります。「悪い情報は先に」を念頭に置いて報告することが大切です。
情報の「トリアージ」によるタグ付け
ただし、情報が多過ぎると、選別して判断するのに多くの労力を要します。様々な情報が鮮度と質を保って伝わってくるのはよいことですが、その半面、情報を無秩序に集めているとしたら、意思決定者に情報をより分ける負担を強いることになります。結果、意思決定スピードは遅くなります。ならば、意思決定者には情報を厳選して伝えればよいと考える人もいるでしょう。
しかし、そうすると、コミュニケーションラインの断絶を引き起こします。情報は途中段階でバイアスをかけてフィルタリングされるのではなく、必要なものが全て意思決定者に伝わる状態になっていてこそ価値があるのです。そうでないと意思決定者は「裸の王様」になってしまいます。
そうは言っても、ただ情報を集めただけで何もしていないと、情報の洪水におぼれてしまいかねません。そこで必要となるのが「情報のトリアージ」です。トリアージとは、災害発生時に要救助者の重症度や緊急度に応じて処置の優先順位を決めることです。優先順位を示すタグを要救助者に割り当て、現場の医師や救急搬送を行う人の間で迅速にコミュニケーションを取ることができ、制約のある状況下で効率的な救命活動が可能になります。プロジェクトにおいても情報のトリアージを行わないと、本当に重要な情報を見落とし、致命的な状態になりかねません。
情報は、トリアージを行ってタグ付けすることが重要です。情報がタグ付けされ、重要度や緊急度を瞬時に意思決定者が判断できる状態になって、情報自体が価値を持ちます。情報がこのように管理されている状態かどうかが、プロジェクトの健全度を表すもう1つの尺度になります。
このように情報が迅速かつ正確に、優先順位付けされて収集できたとしましょう。あとはそのなかで対応が必要な問題を、いかに解決していくかです。プロジェクトの健全度という観点では、重要かつ緊急な問題が未解決のまま残っていたり、重要度や緊急度が低いからといって、数多く問題が放置されていたりする状態も健全とはいえません。
一定期間において「問題の発生件数 < 問題の解決件数」となっている必要があります。そのためには「問題の発生速度 < 問題の解決速度」という状態にする必要があります。解決に向けて意見が活発に交わされ、具体的な解決行動が明確にされ、解決行動の実行者や期限が決められ、実際にその行動が実行される。このような行動が取られ、「重要かつ緊急度の高い問題がない」または「解消されていて問題数も減少傾向にある」状態が健全と言えます。