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プロジェクトを失敗させないヒント75『報告や提案意欲を萎えさせるもの』
『プロジェクトを絶対に失敗させない!やり切るための100のヒント』とは

本記事は、プロジェクトを成功させるために必要なノウハウを、数百の支援実績経験をもとに記述した『プロジェクトを絶対に失敗させない!やり切るための100のヒント』より、 1つずつヒントをご紹介していく企画です。プロジェクトマネジメントについて、何らかの気づきを得るきっかけになれば幸いです。
当社はプロジェクトマネジメントの知識と経験を有し、皆様のプロジェクトが成功するお手伝いをさせていただいております。 プロジェクトマネジメントに関する疑問や課題がある方、成功への道筋をお探しの方、どうぞお気軽にご連絡ください。
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※『プロジェクトを絶対に失敗させない!やり切るための100のヒント』をPDFまたは電子書籍でダウンロードできます
プロジェクトのなかには、気づきやアイデアが満ちています。しかし、それらが意思決定者に届くことは少ないのです。様々な要因に阻まれ、いつの間にか埋もれています。気づきやアイデアを生かそうとするなら、情報提供者が嫌な思いをせず、得をするように変えなければなりません。
(1)責任追及型の情報潜在化
みなさんの周りでも、次のような状況を目にした経験がないですか。
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Aさん:Bさん、実はNチームの進捗が1週間ほど遅れています。
Bマネジャー:なぜ1週間も遅れているんだ。誰が遅れているんだ。
Aさん:お客様と仕様を固めるのに手間取り、期限間近に要求が出てきまして。
Bマネジャー:お客様からスムーズに仕様を聞き出してまとめるのが、君たちの仕事だろ。
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Aさんをはじめ、プロジェクトのメンバーは、Bマネジャーに何か問題を報告すると、いつも責任を追及されてしまうので、Bさんへの報告をついつい後回しにしてしまいがちです。そのため、本当にまずい状況になるまで報告しないことが常態化しています。これがBさんの怒りをさらに増大させるという、悪循環に陥っています。
このような状態は健全ではありません。問題に気づいているのに、後になってから意思決定者に伝わるため、情報の鮮度が落ちています。これでは迅速な意思決定や解決行動につながりません。
(2)意見否定型の情報潜在化
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Cさん:Dさん、お客様との打ち合わせの進め方について、ちょっと考えたんですが。
Dマネジャー:どうした(今忙しいのに)。
Cさん:えーと、よろしいですか。最近お客様と打ち合わせをしていて、どうも今の打ち合わせのやり方に納得されていないように感じるんです。
Dマネジャー:それで?(少しムッとした顔)。
Cさん:もう少し時間をかけて、お客様が納得してから先に進んだ方がよいのではないでしょうか。
Dマネジャー:そう言うけど、納期を考えているのか。そんなやり方をしたら、いくら時間があっても足りないぞ。
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このように、何か改善提案や問題提起を行っても、いつも先輩や上司に否定されているので、せっかく良い情報を持っている人でも、次第に意見を言わなくなってしまいます。その結果、本来注意すべき重大なことを見落としてしまい、最悪の場合、大きな損失につながってしまうこともあります。
(3)実行押し付け型の情報潜在化
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Eさん:今度の報告会ですが、前回は上層部があまり理解されていなかったようなので、このようなイメージの資料を追加してはいかがでしょうか。
Fマネジャー:それはいいね。じゃあ、明朝までに作っておいて。明日の昼までにはチェックしたいから。よろしく。
Eさん:…(ただでさえ忙しいのに、自分がやるはめになるなら、言うんじゃなかった)。
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何か提案するたびに、結局全て自分でやる羽目になると、「次に提案してもまた自分がやらされて作業が増えるだけだ」と考えるようになります。すると、提案自体が減っていきます。このような状態では、良いアイデアや情報を持っている人がいても、その意見を生かせません。
以上の3つは、どれも情報を発信しようとした際に、責任を追及されたり、意見を否定されたり、実行を押し付けられたりして、自分にとってマイナスな状況が発生しています。一度このような経験をすると、相手にネガティブな感情を抱くため、「そんな思いをするくらいなら言わない方がマシだ」という心理が働き、情報が表に出てこなくなります。情報を発信することに消極的になってしまうのです。これではプロジェクトは健全とは言えません。
(4)忙殺忘却型の情報潜在化
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Gさん:Hさん、ちょっと気になることがあるんです。この機能ですが、チェックで引っ掛かったデータは保存しておいて、後で再実行できるように設計しておく必要がある気がするんです。
Hマネジャー:確かにそうかもしれないが、お客様との打ち合わせではそういう話は出なかったし、そこまでは求められていないんじゃないか。それより、来週の報告会資料を早く仕上げてよ。明後日が期限なんで。
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「これは問題かもしれない」と思って口にしてみたものの、その後の作業が忙しく忘れてしまうことはよくあります。これが後になって大きな問題になります。あの時対処しておけば傷口は浅かったのにと、後悔しても遅いのです。
(5)損得勘定型の情報潜在化
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Iさん:どうもLチームは作業が進んでいないらしいね。
Jさん:あれだけ打ち合わせが長ければ、考える時間が取れないもんな。打ち合わせでもあまり結論が出ないみたいだし。
Iさん:せめてその日のテーマを決めて、結論が出るまでは終わらないようにすれば、もっと進むんじゃないの。
Jさん:まあ、Lチームの心配をしても俺たちの仕事が減るわけじゃないし。おっと、もうこんな時間か。明日の打ち合わせの準備をしないと。
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このように自分とは違うチームに関する改善案を思い付いても、自分に害が及ぶか利益がある問題でなければ、よほど相手と親しくない限り、あえて当事者に伝えることはしないと思います。これでは様々な能力や経験を持つプロジェクトメンバーの意見が生かされず、宝の持ち腐れになってしまいます。
以上の例は、前向きに情報発信した方がよいとは思っても、発信することにメリットがあるわけではありません。情報発信しなかったとしても、直接自分に害が及ぶわけでもありません。得も損もしないという状況です。このような場面では情報発信に対する動機付けが働かないため、情報が埋もれてしまいます。
どうすれば、このような状況を回避して情報の鮮度と質を高められるのでしょうか。その方法をそれぞれの事例について見ていきます。
(1)のような「何がいけない」「誰が悪い」というやり取りからは、前向きな行動は生まれません。「どうすれば遅れを取り戻せるか」「何ができるか」と問いかけすることが必要です。既に起こってしまった過去の出来事をどうこう議論する時間があるなら、未来に目を向けて「どうすれば解決するか」を一緒に考える方が良い結果に結び付きます。そのように振る舞っていれば、悪い知らせでも躊躇せず、意思決定者に連絡・相談してもらえるようになります。
足りないところではなく、良いところを探す
(2)のように「視点が足りない」「検討が浅い」といった、相手の意見を否定することから話を始めると、相手は全てが否定されたかのような印象を受けます。この場合、まず相手の意見や提案の「良い点」を見つけ、それを認め、褒めることが大切です。ただし、思ってもいないのに、上っ面だけで褒めるのは逆効果です。自分が本当に良いと思ったことを見つけるように心がけ、口に出して褒めます。
経験豊富なベテランによく見られるのが、過去の自分と比較してしまうパターンです。こうなってしまうと相手に対する見方が厳しくなり、悪い点ばかりが目についてしまいます。そんな場合、過去の自分と比べるのではなく、相手の過去における状態と現在の状態を比べるように視点を変え、その進歩を探すことで褒めるべき点を見つけます。
色々考えてみても、意見や提案内容自体に良い点が見つからない場合もあるでしょう。それなら、意見や提案を自分に伝えてくれた行為そのものを褒めます。
とにかく一度、相手のことを褒めることです。そのうえで改善ポイントがあれば、「今よりも良くなるために」という姿勢で相手に伝えれば、やる気もだいぶ変わってきます。こうすることで、相手が次も情報を伝えようという気持ちになります。
提案者ではなく、作業負荷を見て割り振る
(3)は非常にシンプルな対策があります。言いだしっぺが損をしないようにしてあげることです。意見や提案を出した人からその実行責任を切り離し、全体の作業負荷を見て、実行者を別途アサインします。提案を実行できるスキルを持った人の中から、その時点で作業負荷が比較的低い人に担当してもらえばいいのです。このように負荷を平準化すれば、誰かがアイデアを思い付いた時、安心して意見を伝えようという気持ちになります。
(4)のように、忙しさのあまり、思い付いたことを忘れてしまうのは、誰しもあることです。プロジェクトで「To Doリスト」を用意し、担当者またはチーム単位で共有すると効果的です。忘れている項目がないかを定期的にチェックし、作業漏れを防ぎます。うっかり忘れて遅延している項目があれば、それを課題にエスカレーションするなど、情報を埋もれさせない管理をします。
(5)のように、せっかく良いアイデアや意見が出ても、別チームの話であるため、生かされないのであれば、プロジェクトにとっては損失です。利害関係がなくても積極的に意見やアイデアを提供してくれる人に対して、まず伝えてくれた時点でお礼を言いましょう。重要なのは、その場で感謝の気持ちを伝えることです。感謝されたり、お礼を言われたりして、悪い気がする人はいません。
善意の情報提供には、言葉による称賛で報いる
そのアイデアを実行の当事者に伝える場合、その人たちの前で情報提供者を称賛することも効果的です。やがてその称賛は、実行当事者から間接的に情報提供者の耳に入ります。間接的に聞いた自分に対する称賛は、直接的なお礼よりもうれしく感じられることもあり、効果があります。このように、情報提供して得をしない場合でも、感謝や称賛という形の報酬を受け取れることで、「伝えてよかった」という気持ちになります。
情報の鮮度と質を高めるには、情報を提供する側が安心して伝えられて、その行為が相手から感謝や称賛をもって認められる安全な場が必要です。さもなければ、マイナスの行動が意図せずに表れてしまいます。そうなっては、プロジェクトにとって損失です。PMOはプロジェクトのあらゆる所を歩き回り、行く先々でコミュニケーションラインの土壌を耕していくことで、正確な情報が迅速に意思決定者に届くようになります。このような能力とスキルを私は「PMOの場作り力」と呼んでいます。